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原発とどう向き合うか
2011-04-12 Tue 13:57
残念ながら原子力発電所の事故は起きてしまった。
これをヒステリックに断罪しても何も良い方向に行くと僕は思わない。想定外の枕詞ばかりが目立つ「言い訳」に腹が立たないわけではないが、それをとやかく言っても漏れた「放射性物質」がなくなるわけではない。過去に想定ミスや電源全喪失の状態に備えるべき、との議論がされ、それがなされなかった事実があるにせよ、私たちはそれを記憶に残すことはしても行動する順序があると思う。
言っておくが、電力会社の怠慢を許す心算は全くない。
原発事故が天災によって発生したかもしれないが、結局は備えが足りなかった。それは人災と言って差し支えないと思う。先日「風評被害」について書いたが、彼らは被害者に間違いない。今後、政府と東電は全力を挙げて彼らのバックアップを行わなければならないのは明白である。その方法を早い時期にハッキリと打ち出さないと彼らも不安だし、私たちも不安を払拭できない。
そして私たちは今後、否応なしに放射性物質というものと付き合わなければならなくなった。それとどう向き合っていくか、それが今回のテーマである。

さて本題に入る前に巷で騒がれているドイツ気象局のシュミレーション。

ドイツ気象局(DWD)の粒子シュミレーション分布図


ココの所、政府が情報を隠していると揚げ足取りの材料にされているこのデータだが、実は隠していたわけでも何でもない。
図の題は「福島から放出される放射性粒子の相対的な分布図」と書かれていて左側の注意書きに「要注意:放出源の濃度が明らかでないため、この予想図には空気中にある放射性粒子の実際の密度が反映されているとは限りません。発電所からの仮想上の放出が天候条件によってどのように分布し希釈化されていくのかのみが表現されています」と書かれている。
要はこのデータ、○月○日に放射性物質が放出されたしたら、気象条件でどのように放射性物質が薄まっていくかを相対的に表したシュミレーションだったわけだ。
分布で示す赤の部分は僅かに希釈されている部分で、それに対して相対的にどの程度薄まるのか示しているに過ぎない。
よって現在、このような分布になっているわけもなければ、空気中の有害物質密度も反映されていないので危険度の評価として利用できない。

日本で公表されない気象庁の放射性物質拡散予測

これを報じたのは読売新聞だが、肝心な注意書きの部分をカットした理由はなんだろうか。まさかワザとではあるまいか。注意書きの部分はドイツ語と英語が併記してあるので、読めば意味はわかったはずだった。
とりあえず読売は信用できないで桶の悪寒。


ドイツ気象庁(DWD)による粒子分布シミュレーション & 片対数グラフの説明

序にこちらも槍玉に挙げられている気象庁の資料。

IAEAの要請により作成した放射性物質拡散のシミュレーション資料について

昨日のサンデープロジェクトでも取り上げていたが、どういう類のデータか説明なしで「なぜ早く公開しないのか」と言っている。
このシュミレーションはIAEAへの報告として作成されていたものだが、ドイツ気象局のシュミレーションと同様、仮定のシュミレーションであって今実際に起きていることを示しているのではない。
要するに隠すような資料でも何でもないから、簡単に分かる場所に公開する必要もなかった。

<追記>
言葉足らずに思えたので補足。
この文章の意味は「見せると多くの人が勘違いするので、わかりやすい場所に置くべきでなかったファイル」と表現する方が適切かと思える。
シュミレーションというのは特定の条件で計算するとどういう風になるか(凄く大雑把な言い方だけど)を確かめる為、同じ事象でも調べる目的ごとに異なる結果のシュミレーションが存在する。こういうことに親しみのない人はこの情報を「予報」のように受け取ってしまいがちだ。シュミレーションが仮想現実のようなものと思えば良いのだが、多くの人はそうは思わない。メディアがミスリークしたばかりか、勘違いしたままネットで転載されているのが何よりの証拠。
シュミレーションゲームに嵌った人ならこの辺りよくわかるのではないだろうか。いろんなパラメータを変更すると結果が大きく変わるでしょ。

シュミレーションの目的がそもそも何か、ということをそっちのけで「危険だ」と騒ぐのはマスコミとして如何なものか。
この内容は、もうひとつのテーマ「情報難民、情報弱者」のシリーズに本来載せるべき内容だが、緊急的にこちらで取り扱った。
マスコミの報道にも十分注意して資料の裏付けを取りながら判断する必要があるということである。

放射線による障害

まず、放射性物質から出される放射線によってどのような弊害が生まれるのか把握しなければならない。
放射性物質は放射線を出している。その放射線を出す能力を放射能という。
「放射能に汚染される」という表現は正しくなく正しくは「放射性物質に汚染される」である。
ともかく放射性物質は放射線を出している。それが人間の細胞に当り障害を及ぼすが、短時間で大量に放射線を浴びた場合と、長期間に低線量の放射線を浴びるのでは障害の出方が異なる。この線量は最近お馴染みになったシーベルト(Sv)ではなくグレイ(Gy)を用いる。シーベルトが人体に吸収した放射線の影響度を表すのに対して、グレイは吸収した放射線のエネルギーの総量を表す。放射線によって人体への影響度は異なるため、シーベルトへの変換は受けた放射線加重係数を掛けて変換する。ここでは単位の混乱を避けるため全てmSv(ミリシーベルト)に統一する。

・mSv=放射線荷重係数WR×Gy


放射線荷重係数(国際放射線防護委員会の勧告による)
種類
荷重係数(WR
X線、ガンマ線などの光子 1,000
ベータ線(電子)、ミューオンなどの軽粒子 1,000
中性子 10KeV以下 5,000
中性子 10 - 100KeV 10,000
中性子 100 - 2,000KeV 20,000
中性子 2,000 - 20,000KeV 10,000
中性子 20,000KeV以上 5,000
反跳陽子以外の陽子でエネルギーが20,000KeV以上のもの 5,000
アルファ線 20,000
核分裂片 20,000
重原子核 20,000


短時間で大量の放射線を浴びる、即ち急性放射線障害の境目は1Gyである。人体全てに等しく影響するのではなく、活発に活動している細胞ほど影響が高くなる。

急性全身照射の際現れる急性障害とその経過
線量域(Gy) 放射線宿酔発現までの時間 主な症状 被曝から最重症までの期間 死亡時期
0~1
1~2 3時間 軽度な白血球の減少
2~6 2時間 白血球・血小板減少症、出血、免疫低下による感染症、水晶体混濁、脱毛、一時的紅斑 2~6週間
2ヶ月以内
6~10 1時間 小腸の幹細胞破壊による下痢、白内障、皮膚の水泡
10~15 0.5~1時間 皮膚潰瘍、意識障害、ショック症状 5~14日間 2週間以内
50以上 0.5時間 運動失調、嗜眠 1~48時間 2日以内













UNSCEAR 1988年 Report,日本語訳:「放射線の線源、影響およびリスク」実業公報社(1990)

大量照射ではこのような影響が認められる。
さて4月10日の福島第1原発周辺のモニタリングポスト数値だが、最も高い数値を示したのは測定エリア【83】の52μSv/hである。ミリシーベルト換算で0.052mSvなのだから急性症状の発現する1000mSvには程遠いということが理解できるだろう。
よって我々が急性症状を心配する要因は現状で全くないと言える。

低線量被曝

我々が今後、注意しなければならないのはこの「低線量被曝」である。
今回の福島原発事故が収束するにはある程度の時間が必要だという認識の下、しかしながら流出する放射性物質は一時的なピークを除けば全体に安定して第1原発は横這い、第2原発は減少傾向にある。
問題は現在トータルでどれくらい被曝しているのか知ることだと思うのだ。
現在、事故を受けて緊急措置の年間被曝許容量を引き上げているが、それがどのレベルなのか表を示す。
この数値は自然放射線など普通に生活していても被曝する放射線以外の数値なので注意。

放射線量の大きさに対する人体の影響
実効線量(mSv) 内訳
0.05 原子力発電所の事業所境界での1年間の線量
0.1 0.3 胸部X線撮影
1 一般公衆が1年間にさらされてよい人工放射線の限度(ICRPの勧告)
放射線業務につく人(放射線業務従事者)(妊娠中の女子に限る)が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい放射線の限度
2 放射線業務従事者(妊娠中の女子に限る)が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい腹部表面の放射線の限度
2 広島における爆心地から12km地点での被曝量。12kmまでの直接被爆が認定されると、原爆手帳が与えられる
2.4 一年間に自然環境から人が受ける放射線の世界平均
4 胃のX線撮影
5 放射線業務従事者(妊娠可能な女子に限る)が法定の3か月間にさらされてよい放射線の限度
720 X線CTによる撮像
50 放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が1年間にさらされてよい放射線の限度
81 広島における爆心地から2km地点での被曝量爆発後2週間以内に爆心地から2km以内に立ち入った入市被爆者(2)と認定されると、原爆手帳が与えられる
100 人間の健康に確率的影響が出ると証明されている放射線量の最低値
放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が法定の5年間にさらされてよい放射線の限度
放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が
1回の緊急作業でさらされてよい放射線の限度。妊娠可能な女子には緊急作業が認められていない
250 白血球の減少(一度にまとめて受けた場合、以下同じ)
福島第一原子力発電所事故の処理にあたる放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が1回の緊急作業でさらされてよいと特例で定められている放射線の限度
500 リンパ球の減少
1,000 急性放射線障害。悪心(吐き気)、嘔吐など。水晶体混濁
2,000 出血、脱毛など
5%の人が死亡する
3,000~5,000 50%の人が死亡する(人体局所の被曝については3,000 : 脱毛、4,000 : 永久不妊、5,000 : 白内障、皮膚の紅斑)
7,000~10,000 99%の人が死亡する
10,001以上


20mSv/yは健康な成人男性なら特別問題視する数値ではないが、女性や子供の場合この表を見る限り適当とは思えない。男性より女性の方が放射線への感受性が高く、子供は年齢によって感受性が異なることがわかっているからだ。

ヨウ素131とセシウム137を経口摂取した場合の実効線量係数
摂取者の年齢(歳)
ヨウ素131
実効線量係数(mSv/Bq
セシウム137
実効線量係数(mSv/Bq
0~10.000180.000021
1~20.000180.000012
2~70.000100.0000096
7~120.0000520.000010
12~170.0000340.000013
17歳以上0.0000220.000013

子を持つ親の心境としては少しでも被曝量を減らしたい、と考えるのは当然だと思う。僕だって同じだ。
しかし男親というのはそういう時にこそ「こうだから安心しなさい」と家族の核の働きをすべきじゃないだろうか。
飲料水から放射性物質が発見され制限が加えられたが、じゃあどれくらい被曝するか、とかどの程度経過すると心配するだけムダとか言うのも家族を守る男の立場と思うのは僕だけか?
3月23日の東京で検出されたヨウ素は210Bq/kgだった。それがどの程度の放射線量だったのか計算してみた。

預託実効線量 = 放射能濃度(Bq/kg) × 実効線量係数(Sv/Bq) × 摂取量(kg/日) × 摂取日数(日)
ヨウ素I-131の実行線量係数2.2×10-8 

http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html
人が一日に飲む水の量2リットル=2kg
210×2.2×10-8×2=0.00000924mSv


この数値は上記の1mSv/yと比較しても全く問題にする数値ではない。

では、1歳未満の乳幼児に与えた場合はどうだろうか。

先の表の数値を当てはめて計算してみると

210×0.00018×2=0.0756mSv

桁がかなり上がるがこの数値をとっても特段に人体への影響があると言えない数値であり、この規制値に問題があったわけではない。規制値の引き上げについて批判が多いが、普段の規制値は全く人体に影響を与えないばかりか過剰なくらい安全マージンを取った数値である。ICRPの規制値は厳し過ぎる、との批判もあり、今回の規制値引き上げはICRP自らの勧告に従ったものであることに留意すべきである。
東京都が何故この数値で制限を掛けたかはもちろん規制値を超えたからだが、もし放射性物質の数値が下がらずこのまま維持されると確実に年間許容量の1mSvに近付くためである。



年間累積被曝量

ここまでは、スポット的な被曝量について計算してきた。
しかし、我々は飲料水だけから被曝するわけではなく、空気中の放射性物質、降下物(フォールアウト)などからの外部被曝と呼吸や汚染された食物を経口摂取することによって体の内側から被曝する内部被曝の両面を計算し、年間被曝量の限界値までどれくらいの余裕があるか知る必要があるだろう。
現在、モニタリングポストの値はヨウ素I-131とセシウムCs-137の値を各自治体が毎日公開している。これ以外にストロンチウムSr-90も3番目に懸念される物質だが、生成される量が非常に小さいため、検出されていないと思われる。と思ったら、今日(13日)の報道で飯館村と浪江町でSr-89とSr-90がそれぞれ検出されたようだ。土壌とサンプル植物からの検出で水に溶けやすい性質により土壌に溶け込んだのではないだろうか。
さて、計算の実例として特定の地域で現在までの累積値のモデルを出そうと思っていた。それを30kmエリア外で高い数値だった飯館村にしようかと資料を引いていた昨日、事故のレベルをチェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7」に引き上げ、飯館村の計画避難が始まったと報道された。
レベルは同じでも事実上、起こったことは違っている。チェルノブイリと同一視できない、というのが当初からの見解だが現状でもそれは変わらない。
チェルノブイリ原発は黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)という中性子の減速制御に黒鉛を用いた原子炉でロシア特有の原子炉と言えるものだ。
この原子炉の特色は減速制御が固定された黒鉛ブロックが受け持ち、冷却水は吸収に使われるということである。この冷却水の絶対量は大きくなく核反応が増大すると水の密度が不足して冷却不足になるボイド効果があったが、燃料ペレットが温度上昇に伴って中性子吸収が増大して安定する正のフィードバックを持つのと反対に低出力では負のフィードバックによって雪だるま式に熱上昇が起こる構造だった。
つまり高出力では安定するが低出力では不安定という運用上問題の多い原子炉だった。
事故の時、低出力で緊急停止したため負のフィードバックが生じた。緊急停止すると6秒間、冷却水が停止する構造だったため冷却水が蒸気化し原子炉が暴走。ジルコニウム合金圧力管が破損して黒鉛ブロックと接触して水蒸気爆発し、原子炉建屋もろとも大爆発をした事故だ。
ソビエト計画の真打だったこの原子炉は安価で低濃度ウランでも稼動できる特色がある反面、構造的にも理論的にも欠陥を内包していた。これに加えてオペレータの教育不足が加わった。
日本の事故はこれとは全く性格が異なるものだ。冷却手段を喪失したことは同じだが、チェルノブイリでは極短時間でメルトダウン、爆発というプロセスを踏んだのに対して、福島の事故は水素爆発であって建屋が損傷した。格納容器に損傷があるのかはまだ正確にはわからないと思われるが、少なくとも炉心爆発ではない。事故の質が違う点はしっかり理解するべきである。
エントリーの書き出しで記述したように、マスコミにもさも「行政に隠そうとしている」とするかのような思惑を大衆に植え付けたい意図があるかのような記事を書いている事実から、タイトルに惑わされて判断を鈍らせないよう気をつけなくてはならない。

さて今回のテーゼに戻そう。
外部被曝と内部被曝の観点から累積値を求めるのであるが、モデルケースをどこに求めるか改めて考えてみた。今のところ避難すべきでないエリアの福島市がどのような状況か計算で求めてみようと思う。

データは福島県災害対策本部が発表した県内各市町村 環境放射能測定結果(暫定値:第36報)を元に環境放射線を計算した。
計測は3月17日以降に行われたのでそれ以前のデータがない。従い16日以前は17日の測定値を用いた。

1日当り放射線量(mSv/d)=(1回目測定値+2回目測定値)/2/1,000×24

測定値はマイクロシーベルトなので単位を揃えるためミリ換算の1,000で割っている。
環境放射線の累積値は3.84612mSvである。

一方で空気中にある放射性物質を呼吸によって吸い込むことにより、体内から被曝する内部被曝のリスクがある。
こちらの資料は「文部科学省 環境資料及び土壌モニタリング測定結果」の観測点【1】 福島市杉妻町のダストサンプリングデータを元に算出した。

ヨウ素I-131呼吸による被曝量=測定値×7.4×10-9×呼吸容積
セシウムCs-137=測定値×3.9×10-8×呼吸容積

成人の一回換気量:0.0005㎥
1分間平均呼吸回数:14回
呼吸容積=0.0005×14×60×24


それぞれ計算して合計したものが呼吸による内部被曝の累積値となるが、セシウムに関しては一部データ欠損があるため若干数値が低くなっている。
これによるとデータが提供され始めた3月17日から4月11日までの内部被曝量は0.04mSvである。

これらの数値は当然、24時間風雨に晒された状態、つまり最も放射線を浴びる条件で計算したもので、実際には屋内にいて、放射性物質を吸い込まないようマスクなどの防護をしているとこれよりずっと小さい被曝量になっていると考えられる。特にウイルス対策用のマスクはウイルスに比較して放射性物質の粒子が大きい事から効果が高いと思われる。
政府の屋内退避による被曝低減の根拠はIAEAがまとめたPlanning For Off-Site Response to Radiation Accidents in Nuclear Facilities(IAEA-TECDOC-225)のデータに基いたものである。

これによると機密性の高い建築物においては1/20~1/70、通常の換気率建築物において1/4~1/10甲状腺線量を低減できるとしており、いかにヨウ素を吸入しないよう注意するかが重要だとしている。
また、放射線から遠ざかることが最も有効である、とした上で、混乱などを考慮すれば簡便な方法として屋内退避が有効な手段であるとしている。
さらに被災直後、ライフラインが寸断され水の供給が停止したことから飲料水からの被曝や食べ物からの被曝は極小であると思われ無視できるものと考えられる。
従い、福島市内の成人については現状で年間の限界被曝線量1mSvには若干余裕があると見てよいだろう。
感受性の強い17歳以下の子供については注意が必要なのは言うまでもない。
特に背に低い小学生以下の児童は地表から舞い上がる埃に含まれる放射性ダストに影響を受け易いだけでなく、自ら予防措置を行えない。従って周囲の大人がサポートする環境づくりが欠かせない。
特段気をつけなければならないのはヨウ素であるが、原発が安定すれば半減期の短いヨウ素は短期間に問題とならないレベルになるのであって、未来永劫このレベルでないことは日毎に計測数値が小さくなっていることでもわかる。
寧ろ恐いのは「慣れ」で雨に当たらないように、とか吸ってしまわないようにマスクで防ぐなどといった注意が疎かになることだ。危険が去ったわけではないので遠くの人も近くの人も「ほどほどに恐がる」ことが重要だと思うが如何だろうか。

さて政府は平時の年間被曝許容量1mSvから緊急時の20mSvに引き上げる方針を示したことについて、ネット上でも批判が紛糾しているようだ。様々な数字が飛び交っていて根拠に使われている。
例えば世界平均の2.4mSvまでにすべき、などもその一例である。
因みに日本人が自然界から受けている年間放射線量は平均1.4mSv程度で世界平均と比較して少ない。



世界には以前に紹介したブラジルを始め他にも高自然放射線地域がある。不思議なのはこのような地域で特別に癌が多いわけではないことだ。
人類が移動を繰り返し生活していたことから、もしかするとある程度の放射線には順応能力があるのかも知れない。かつて日本人はブラジルへ大量の移民をしているが、世界平均より自然放射線が少ない日本人が10倍も放射線レベルの高い場所に行って耐性がないのだとしたら何らかの障害が多発したと思われる。
しかし調査によればそのような事実は認められない。

これは推論であるので全面的に強調して言うべきではないが、人間の根幹である順応性の高さから考えると至極まともな発想だと思う。
更に日本人の食生活による特殊性も考慮しなければならない。
非常に問題となるのはヨウ素131であるのだがヨウ素は人間にとって必須元素で体内に持っていてそのほとんどは甲状腺に蓄えられている。ヨウ素が海藻類に多く含まれていることは最近の報道でよくご存知かと思うが、特に日本人は海草の摂取率が高い民族である。ヨウ素に限ったことではないが先客が体内にいると新たに入ってきた元素は吸収され難い性質を持っている。日本人の特性から吸収されても30%程度(他説では20%)でほとんどが体外に排出されるとの研究結果がある。安定ヨウ素剤の効果はヨウ素を予め摂取して体内のヨウ素を飽和状態にして放射性ヨウ素の吸収を妨げることが目的である。
欧米人は食生活の違いからしばしばヨウ素不足になることがあり、原発からの放射性ヨウ素を吸収しやすい素地があることは見逃せない。甲状腺癌の増加した一因にこのような事情もあることはもう少し発表されても良いのでないかと思う。

また、規制値を引き上げることによって「しきい値」のない症状の発症について増大する、と批判されている。マスコミの批判のみならずネット上の議論もしきい値を用いたものが多く、当初、まだ研究段階にある部分の言及は適当と考えなかった(というより理解が難しく読者が混乱する可能性が否定できない)が、この解説を避けてはこの問題の解決ができそうにないので踏み込んでみたい。
しきい値とは簡単に言うとこれ以上の放射線を浴びるとこのような症状が出るが、これ以下だと出ない、という境目である。放射線障害はしきい値のあるものとないものがあり前者を確定的影響、後者を確率的影響と呼んでいる。
現在、ハッキリ解っているのは短時間で大量の放射線を浴びた場合の人体への影響である。これはすでに表で示した通りである。
逆に100mSv以下の低線量被曝は明快な影響が判明していない。そこで非常に単純な考え方として少ない被曝の範囲でも直線的にガン発症の比率が存在すると考えたのがしきい値なし直線比率仮説(LNT仮説)である。



この考え方は影響がわからない部分にも影響があるとした方が安全、という考えに立脚したもので、科学的に証明されていない。従って仮説の域を出ていないのである。
ICRPはLNT仮説を「この仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり、すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない」としているように、低線量被曝によってガン発症のリスク増加を裏付けるものでないのは明らかである。
(財)電力中央研究所が2004年に行ったマウス実験を書いておきたいと思う。
実験では一回に与える放射線を高いグループと低いグループに別けて照射する。
高線量グループは一回に1.8Gy(空間線量率2.0Gy/min)を週一回照射して4週間の合計が7.2Gyとなるようにした。1.8Gyという線量は年間に浴びる自然放射線の約1000倍に相当する。
低線量グループは1.2mGy/hを連続して330日照射し総積算被曝量が致死量になるよう実験を行った。
すると以下のような結果が得られた。

  1. 高線量グループでは90%の割合で胸腺リンパ腫が発症したが、低線量のグループには1例も認められなかった。
  2. 高線量グループでは、胸腺以外の臓器にも放射線の障害と思われる所見が認められたのに対して、低線量グループには1例も認められなかった。
  3. 高線量グループでは、外見上も放射線障害と思われる立毛、呼吸不全等が観察されたのに対して、低線量グループでは一例も認められなかった。

このようなことから、低線量であれば自然放射線の10000倍程度までは放射線障害が発生しない可能性があることを示唆している。
更に実験では10Gyまで照射しても胸腺リンパ腫が発症しなかったばかりか、寿命の延長、糖尿病発症抑制などの効果が認められたと報告している。無論、短時間に10Gyもの放射線を浴びれば死亡するが低線量を長期間浴びた場合、明らかに影響の違いがあると考えてよい。
しきい値なし直線比率仮説は突き詰めると大集団が微量の放射線を被曝した場合、少人数の集団が大きな被曝をしたのと同じ健康被害がでるという結論になってしまう。
Wikipediaの集団積算線量で例が書かれているが少し解り難いので補足説明をしてみる。

100mSv×200人=20000mSv
0.001mSv×20,000,000人=20000mSv
20,000/1,000=20Sv=20[人・Sv]集団積算線量


どちらも計算結果が同じ値なのでICRPの健康被害発生リスク係数[0.05]を掛けると1人がガンになる計算になってしまう。

要するに低被曝で人数が多いと同じ健康リスクが発生するという考え方だが、この評価方法は科学的証明がなされていないだけでなく、しきい値なし直線比率仮説は保守的な仮説であるため事故の規模を過大に評価することが指摘されている。
ICRP2007年の勧告で集団積算線量率は「疫学的に用いるのは不適切」としたが、度々原発反対論者の根拠とされてきた。
今回もそのような思想をお持ちの専門家や先生がネットやマスコミを通じて「民衆の不安」を必死に煽っておられる。
例えば中部大学の教授 武田邦彦氏もその一人であろう。

彼の特設サイトで絶好調であるが、その理論(というか論調)の根底には放射線悪、政府悪、マスコミ悪、一般市民=何も知らされない弱者という公式で成り立っている。同意できる面もあるが8割以上は同意できないトンデモ理論である。
例を上げよう。
「原発深層流001 信用できる人、できない人 その1」では原発近傍の海から放射性ヨウ素が規制値の3355倍を観測されたことについて
「一般の人の被曝線量の限界は1年間に1ミリシーベルトになっていますが、その3355倍というと、3シーベルトを越え、50%の人が即死(急性疾患で死亡)するような放射線量になります。」
と書いているが、この数値は海で観測されたのであってこの数値が直接人体に影響するものではないことは子供でもわかる理屈である。原子力保安院の会見は嘘を言ったのではなく「現状では原発に近付くこともできないのだから海から直接の被害はない」と言っているのであって「海水浴云々」は問題のすり替え以外の何物でもなかろう。
また東北の農産物や海産物は出荷制限が掛かっていないものでも食べるな、とこの先生は言っている。これでは1次産業でなりたっている町は何時まで経っても復興できない。一方ではスーパーも偽装するから安心できないなど世の中全て悪という論調には恐れ入る。
また、「原発 緊急情報(30) 被曝を少なくする方法(その2)」で農林水産省がほうれん草を良く洗って放射線測定するよう指示した事について「数値があてにならない」「インチキ」と言っているが、放射性物質は埃のように付着しているのであってほうれん草のように葉物野菜は表面積が大きいので付着量が多くなり検出量が高くなりがちである。しかし洗えば放射性物質は落ちるのであるから「調理する前の条件で安全か確認」することが数値の捏造になるとは考えられない。この時点で規制値を上回れば規制され出荷できないのだから、実に理に叶った検査方法だと考えられる。それを何が不満で煽っているのだか意味がわからない。
また現在の規制値はそのギリギリのレベルの食品を1年間連続して食べた場合でも健康被害がないことを前提としている。1度食べたからどうこういう話では勿論ないし、加えるなら現状が変わらないのなら今後も難しいことになるだろうが事故は収束に向かっていることは間違いないのである。
もう無茶苦茶だ。
更に「原発 緊急情報(47) 汚染・6日に日本全土に拡がる怖れ」では冒頭で取り上げたドイツ気象局のシュミレーションを以ってして4月6日に注意しろ、と熱心に注意喚起しておられる。このシュミレーションがそのような事を表していないことは既に述べたとおりであるが、武田氏は読売新聞と同様に「注意書き」の部分をあえてカットして公開している。彼のような学者ならこの程度の英語を理解できないはずもなく「知らない弱者」という民衆へ嘘の情報を流した点では政府より性質が悪い。
しかも、どうやら自然放射線の量と人工的な放射線の管理量をごちゃ混ぜにしているようだ。
「原発深層流002 危険な原発? 安全委員会速記録(1)」においては「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を取り上げ、大きい地震が起こったら「想定外」として良い、想定外の地震が起こると「大量の放射性物質」が放散される、公衆に対して放射線被ばくが起こる、地震で極めてまれに津波が発生するなどと列記している。因みにこの資料は普通に閲覧ができる資料だが、そのような事実はどこにも書かれていない。武田氏はどの部分を曲解したのか非常に疑問である。
またこのように誰もが閲覧可能な資料であるにもかかわらず参考文献へのリンクをしておらず、引き合いに出しているICRPのデータもリスク算出の根拠にできないと断言しているのに引用しているのは、公衆への混乱が懸念される。
最も武田氏の論調で気に食わないのは「子供を持つ親の心理」を度々持ち出していることである。この記事ですでに述べたように今現在、私たちが特別に健康リスクを負っているわけではない、と主張しているのだが人間の心理とは理論が反映され難いものである。子供への心配心を装うかの理論を以って政府非難や東電非難などという論調を展開するのは、親の感情を利用していると言わざるを得ない。
学者という立場から「的確に恐がらせる」のであれば誤った資料や情報などを持ち出すべきではないのだし、ご自分の計測データがあるのなら提示すべきである。いわき市で屋内と屋外を測定して変わらなかったというのであれば測定データを公開すべきであり、それが本当だとしたらご自身が書かれている「確かに、密閉した家屋にいると(国のデータでは)屋外の10分の1から4分の1の範囲になることが知られています。」は明らかに矛盾していると思うが何故そのようなデータが得られたのかは説明していない。

武田氏が世間で知られるようになったのは著書『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』(洋泉社、2007年, ISBN 4862481221)であるが、その内容は科学的な欠陥や誤謬があり、加えて引用データの捏造が指摘されている。
今回の原発関連のテキストにおいても空間線量の外部被曝と経口摂取による内部被曝の量を同一視するなど基本的な被曝の考え方に間違いがある。
教授が何度も発言しているが、市井の読者もこれを読んで同様に「わたくしはびっくりしてしまいました」とブラウザの前で呟いているに違いない。
武田邦彦氏は最近朝日系列の「ニュースの深層」に出演したらしい。広瀬隆氏もそうだがどうもゲストが反原発論者に偏っていないか。というか朝日新聞が反原発なのが原因か。
世間では「武田リテラシー」なる言葉もあるくらいだから、こういうトンデモ先生の理論を読む時は心して読まないとうっかり嵌められる可能性は高い。


物理学者寺田寅彦はこんなことを書いている。
「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた」

チェルノブイリ原発事故は人類史上最悪の事故である。しかしその影響は当初考えられたものより遥かに小さかった。
子供への甲状腺ガンが増加した、という報告もあるがこれには別の捉え方がある。
それまでこの地域がガン検診を事故前にどの程度行われていたかということは多少念頭において考える必要がある。事故後、甲状腺の検査方法や報告において見直され、無症候のガン細胞も発見されるようになった。従来見逃されていたようなガンまで発見され総数が増大したとの指摘である。本来、子供の甲状腺ガンは希だとされていたが、このような死ぬまで発症しない無症候細胞があることがわかっている。
非常に問題なのは心理的な問題である。
放射線によるネガティブな情報によって生じる不安は、確実に放射線より身体を蝕む存在である。ストレスが原因で活性酸素が増えることは医学的に知られているが、活性酸素もフリーラジカルでありガンを誘発する原因である。果たしてガン発症は放射線が原因なのか、それとも放射線への誤った情報がもたらすストレスが原因なのか、一体どちらなのであろう。

最後に八代嘉美氏のエントリをご紹介したい。八代教授も同様に「ほどほどに恐がる」ことを理論的に解説しておられる。幹細胞生物学者らしい解りやすい説明となっているので一読をお薦めする。

放射線は「甘く見過ぎず」「怖がりすぎず」

とりあえずこの稿はこれで脱稿しよう。書きたかった本質は全て書いたつもり。
中間の方程式や計算資料などを補足すると思うが、理論的な部分は弄る予定はない。
僕の立ち位置は常にリアリストであって理想主義的なものでも宗教的(武田氏の意見はこれを感じる)でもない。常に信頼しているのは「感情」ではなく科学的論理的な裏付けと数値である。特に緊急時における判断は感情論を差し挟むことを行わないことが鉄則と考えている。
本論は書きかけのメディアリテラシーの戻すが、本稿においてもこれら情報の正確さを検証する作業は各個人が行うべき問題だと考える。


参考資料
Wetterlage und Ausbreitungsbedingungen in Japan
放射線影響協会 チェルノブイリ20年の真実 事故による放射線影響をめぐって(2006年)
Association pour les Techniques et les Sciences de la Radioprotection, ATSR 2003 regles-calcul-dose-eff-externe-interne.pdf
Published by the World Health Organization in 2004 under the title Guidelines for Drinking Water Quality, Volume 1, 3rd edition
原子力安全委員会 原子力施設等の防災対策について
高自然放射線地域住民の疫学と染色体調査についての最新知見
ブラジル在住日系人における環境発がん要因に関する疫学的研究
高自然放射線地域住民の健康調査
安定ヨウ素剤投与
中央電力研究所 マウス放射線発がんの線量率依存― 低線量率なら長期継続照射しても胸腺リンパ腫を生じない ―
寺田寅彦「寺田寅彦随筆集 第五巻」
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